仲村一男のエッセー

 

水面は油を流したようにドロンとして、波がなく、石炭船や、きんちゃく、うたせ舟がせわしく動いている。港の先に造船場があって、以前よく描きにきた。今日も寄ってみると、二十ほどの古びた舟が陸揚げしてあり、画材には申し分ないところである。働いている人たちはみな親切で、私など断りもなくはいっていってもだれも不審がらない。今は長さが半分ほどになったが古い船板で作った塀(へい)など、四角い穴や、丸いクギあとがあって、色も形もおもしろい。五、六年前、独立展に出したのも、この塀である。

 

※(読売新聞・夕刊・昭和37年8月15日)

 

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