仲村一男のエッセー

十五歳違いの夫婦‥‥。背は五、六寸程低い、目方だけは三貫以上も上。私は軽くて、カンカンに乗るのを嫌うし、家内は重くて乗らないらしい。
家内の里は東京で昔は鉄工所をしていて娘時代は若い衆を沢山使つていた中で育つたせいかとても気が大きく、まるで男の子のような気風です。映画好きで毎週セントラル劇場へ行く。強風注意報が出ている時でも、子供と一緒に出掛ける。瀬戸物類などこわす事もたいしたもので、子供達より上‥‥。私も気が小さい方ではないつもりだが家内がバリバリやるのでついけちくさくなる。
私がどんな絵を描いていても何もいわないし、展覧会の折など、毎日ほど、終電車で帰宅したり、時には泊つてしまうこともあるが、唯ニタニタ笑つているだけ‥‥。絵でも売れて一寸した金が入つた時など、私の物や子供達の服などをパッパッと買つて来て、自分は平気で、私の服など着て街を歩いている。金がなくなつて困つている時でも一こう平気で私の方がヒヤヒヤする。
それでいて子供が病気でもすると、とても神経質になつて、すぐにお医者様に飛んで行く。
家内は肉類や油気の多い魚は嫌いで、私は好き‥‥。身体は大事だといつては私の好きな物ばかり買つて来て、自分はまづいものを喰つて益々肥つてくる。
惚れて一緒になつたわけではないが、これでは一こう喧嘩になら無い。私の方が子供あつかいされているらしい‥‥。

 

(掲載紙不明)

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