仲村一男のエッセー

あるあつい夏の日に、スペインの古都トレドで闘牛を見た。ちょうど隣の席に、あたりが急に明るくなるような、美しい三人連のスペインの娘さんたちがいて終わりまでいっしょだった。
強い太陽もようやく西にかたむき、闘牛士の影が長くのびるころから、いよいよ最高潮になる。群衆がどよめき、皮の水とうや帽子などを盛んにほうっている。
ふと彼女たちをみると汗ばんだはだに美しい黒髪が、ぴったりとくっついて、大きな目をカッと輝かせながら、真剣な表情で、闘牛士の動きに見入っている。まるでゴヤの絵の中から出てきたような、素晴らしいながめだ。その日は折良く有名な闘牛士マニエルが出場していたので、彼女たちも一層情熱をたぎらせていたようだ。
太陽と闘牛と女―私はこんな女が描きたい。

 

※「描く」欄(掲載新聞、掲載日とも不明)

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