仲村一男のエッセー

 

この月は三度も上京して、ほとんど東京に居つた様な具合。裏庭の柘榴が、最初に上京する頃、もうぼつぼつわれそうに成つて居た。東京の家内の里にも、泉水のそばに大きな柘榴の木が在つて、朝起きると目の前に、いつもぶら下つて居る。面白いもので、自分が種をまいて大きくした木になつた実がとても可愛く、柘榴を観るたびに家が恋しくなる。我家に居つて毎日ながめて居るが、まだ描かずに居る。木にのこつた二つだけが真赤になつて目にしみる様に美しく、今もぶらさがつて居る。この柘榴が、今の私にさずかつた最も美しい物だと思えて嬉しい。

 

※「第24回独立大阪展目録」(1956)

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